2013年5月27日

図書館の森で出会った“フシギな虫たち” ― 本と人、人と人をつなげるユニークな企画展

 この春、芸大図書館では在校生はもちろん、新入生の皆さんに図書館で素敵な本と出会ってもらおうと、デザイン学科の学生9名で立ち上げた企画集団「企画屋oN」の企画・創作による展示「本の虫」(4月1日から30日)を開催しました。

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廃棄図書をリユースして作った巨大みの虫くん。
図書館の入り口前でお出迎え。
インターネットで簡単に情報を得る「ネット世代」の若者たち。
スマホなど携帯端末で手軽に本が読める今だからこそ、図書館に足を運び、本を手に取ってみてほしい、本を開きページをめくる時のわくわくした感じや装丁を鑑賞する楽しみを味わってほしい!と、企画屋oNのメンバーたちは、なんと書架が並ぶ閲覧室に小さな森を作り、本に夢中になる”本の虫”さんたちを出現させたのです。

 

図書館を楽しもう!本好きの人も読書の習慣がない人も、森=図書館に生息する本(の虫)を見つけることで、楽しみながら本と出会う、本展示は本と人をつなげるための新しい提案をしてくれたと思います。森=図書館を訪れた利用者はわくわくしながら虫(本)を探すとともに、企画屋oNのメンバーがデザイン・製作した本の装丁やしおりに、思わず引き寄せられていました。

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本の虫さんはどこ?

 ひとつひとつ手作りした作品はどれも斬新で、そのクオリティの高さはデザイン学科で日頃研鑽を積んできた賜物。観る人に驚きや発見を与えていました。

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 本と出会い、人と出会い、そしてまた、本と出会う!
   オモシロ、ワクワク、発想力が連鎖する

 今回の展示は、本に夢中になる人を増やす、人が集まる図書館にする、そんな強いメッセージが作品に盛り込まれています。企画屋oNが本展示で発信した本と人、人と人をつなげるコミュニケーションのかたちは、ねらった以上に芸大図書館が自由な発想を生む空間であることを利用者に伝えてくれたと思います。

honmusi_5.JPG ふしぎの森で出会う虫や花や緑は、単に”カワイイ”だけに留まらない、ものづくりのヒントや想像する楽しさを感じさせる、まさにアート作品。ファンタジーとリアルのバランスのよさに感動したのか、すごーい!オモシローイ!の声があちらこちらで聞こえてきました。

 今回の展示を企画してくれた企画屋oNのみなさんです。

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 代表の立部絵梨さん(デザイン学科2回生)が本展示のコンセプトについて語ってくれました。

私達は本離れが進む中、本に触れてほしい、紙媒体の本の素晴らしさに気づいて欲しいと思いました。(略) 作品をつくるだけの展示会ではなくその場所の特性や問題をもとに企画を考え、展開(on)してみました。
メンバーはみんな「展示を通して思いを繋げたい」「企画で新しい魅力を伝えたい」「驚きやわくわくを発信したい」という気持ちを強く持ち、未熟ながらに今も楽しく次へ次へと動いています。
今後も様々な場所を使って企画展示を行っていき、目指すは「この人たちならきっと面白くしてくれそう!」と思われる身近な企画屋さんとして情報発信していきたいです。

 キミたちが芸大図書館の個性を創るんです!!

 大学にそれぞれ学風やカラーがあるように、未来のアーティストである芸大生諸君! 図書館員と共に芸大図書館の個性を創り上げていきませんか。
芸大図書館は利用者の研究・調査のサポートはもちろん、利用者がもっと楽しく、発想力や創造力を養える場として活用してもらうにはどうすればいいか、をいつも考えています。
こうした学生と図書館の協働で創る新しい図書館づくりに、他大学の図書館も取り組まれています。その先駆けとなった芸大図書館は、これまで学生や院生が作った芸術作品や、学生目線で考案した新しい大学図書館システムの展示などを紹介し、創造空間としての役割を担ってきました。これからも学生と共に創り続ける図書館として、様々な学術・芸術情報を発信してまいります。

 本展示は終了しましたが、開催中、多くの方から好評を頂き、企画屋oNの次回の展示を期待する声も多数、寄せて頂きました。

投稿:図書館
 


2013年5月21日

久家多佳恵展 (短大デザイン美術専攻08修了) Oギャラリーeyes

3月25日から30日にかけて、久家多佳恵さん (短大デザイン美術専攻08修了)の展覧会が、 Oギャラリーeyesで行われました。

会場には絵画、版画等の作品が展示されていたが、強烈な印象で私の目を引き付けたのは、長さ2mを超えるだろう浅黒い絵画である。この絵画は鑑者を画面上に映し出す鏡のような絵画である。

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順に作品を見る。画面中央を横に横切る線、トーンが異なる面のぶつかるところがあたかも水平線のように伸びる。上部は赤黒さが下部より暗くなにか茫洋とした風景場所を感じさす。画面上に筆痕により靄のように画面を作っている。その靄の隙間から同色で描かれた丸のドットが描かれていることに気が付く。一般的なドットによる表現は、平面が均質であることの視覚効果でもある。しかしこの画面では均等な並びながら、一つ一つは陰影の違いや形の不明瞭さなど、均質な画面を構成できるようなものではない。その効果から、画面には緩やかな曲面を作り出し揺らぎ始める。

 

0518_3.jpg描かれたイメージとともにこの絵画は鏡にような表面を持っている。鑑者が作品をみると同時にその中に鈍く映しだされるのだ。この水面のような表層とその下にあるイメージ、水の表面に映し出される奇妙な屈曲した空間が表れている。作品は正面の風景を取り込み描かれたイメージと同居し存在している。この絵画は鏡のようにある。なぜかベラスケスの「侍女たち」を思い出した。

 

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室
 


2013年5月13日

コラボレーション公開制作 池田和(美術学科12度卒)岩本光平(デザイン学科12度卒)

5月3日「大坂の陣四百年祭 プレイベント道明寺合戦まつり」が道明寺で行われました。その企画の一つが、この地で戦死した後藤又兵衛と多くの兵士達の魂を鎮めるため、卒業生2人が協同で高さ180cm×長さ360cmの壁画を制作したことです。

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作品は夕方遅く完成し、続いて多くの見学者と取材関係の人たちの前で作品の解説を行いました。彼らの作品は、道明寺天満境内に展示されたあと藤井寺市市役所に展示される予定です。

また、夕暮れから、境内をほのかに照らす牛乳パック灯篭が飾られました。そこには、岩橋美佳さん(芸術計画学科12度卒)の切り絵作品(高さ90cm×幅70cmの三角柱構造)が展示されました。作品は、「虎高(ここう)の槍使い」「草猫(くさねこ)」「水花(すいか)」
の作品で構成されています。

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牛乳パックを利用しその表面を自由に装飾した作品は、地域の子供からお年寄りまでが参加し制作されたものです。
 

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報告 加藤隆明 教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室

 

 

 


2013年5月7日

前川奈緒美展 (美術学科専攻科98修了)

昨年12月10日から15日まで、前川奈緒美さん (美術学科専攻科98修了)の個展がOギャラリーeyesで行われました。

強烈な色面と引っ掻くようなドローイングで構成された絵画は、その荒々しさから鑑賞者に強い印象を与える。上から下に向け太い筆で一気に振り下ろしたような色の痕跡は、複数の色彩が重なり合いその特性により絵画の独自な空間が生まれている。画面上に描かれた太い線は、絵具の厚みやかすれが表出し層をなし色彩の関連性で複雑な表情を作り出している。

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作品をよく見ると絵具がない部分があるが、その場所は基底材としてのキャンパスの構造が見えている。キャンパスは麻を織り込んでいるので表面には凹凸がありその部分に絵具が留まり、キャンパスのテクスチャーを表象している。その上の層の絵具は硬質のつるっとした質感が表れている。これらの表面は画面上でおこる偶然の出来事のため、制作者は身振りを最小限の方法である上から下に描く方法、それを選択したのだろう。

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それが次のドローイングに表れている。ペインティングした後、その画面を引っ掻くように描かれている。その線は強く短いストロークで鋭角に描かれているが、描くといっても絵具を画面に置くのではなく、色面の絵具を削り取るように描いているのである。

この鋭いストロークは、色面を制作するときの身振りとは異なり、非常に感情的で肩、腕、手首の関節を複雑に運動させイメージを作り出している。作品全体からアクティブなものを感じることができるが、それはペインティングとドローイングの身振りの違いから生まれてくるものであったと思う。
 

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室


2013年5月4日

上村和夫展 (元美術学科教授) ギャラリーHOT

昨年11月19日から12月1日にかけて、 上村和夫先生(元美術学科教授) の個展が行われました。
 
少し離れたところから鑑賞すると淡くイメージが描かれた抽象絵画のように見えたが、近づくと画面いっぱいに無数の数字が描かれていた。数字や記号をモティーフにした作品は、ネオダダのジャスパー・ジョーンズやコンセプチュアル・アートの河原温が有名である。そのジャスパー・ジョーンズの作品をみた時、数字の表現があれほど美しくなるのかと感じたことが思い出された。

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離れたところから見た作品は、背景の色彩から淡くぼんやりとしたイメージが浮かびあがり霞のような空間であった。しかし画面に接するとそこには無数の数字が描かれていた。遠近の差により、ぼんやりとした画面を構成していたのは曖昧なイメージではなく記号であったということに驚く。

次に鑑賞者が考えることは、この数字に何か意味があるのかということである。そこに作品を見る人の興味は集中するだろう。無意味な数字の列か意味があるのか謎解きのような鑑賞が始まる。近年私たちは大きな社会的出来事を数字で記録記憶するようになってきた。そのためこの数字が意味を持たないものとは考えないだろう。

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数字の意味を先生から聞かせてもらった。非日常の出来事が起きた年日だそうだ。描かれているのは出来事を記録した数字である。その数字が延々描かれている。非日常体験とはその日その時をおおきく意識させられる時であり、日常とはそのような関係のことなど無自覚に、そして自明のことが透明になっていることである。

上村先生はそのような出来事を、画面の上に極細の面相筆であたかも写経のように数字を記録していく。それは「鎮魂の絵画」のようでもあった。

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室