昨年の11月9日から17日にかけて、山内麻美さん(美術学科11卒)の個展がギャラリー風で行われました。
パステルカラーで描かれた人物画は独特の輪郭を持って表面に表れている。ブレるように描かれた人物は、何も示唆することはなく、ただただ眼の中心領域より周辺に写された意識することがないモデルとして描かれている。よってこのモデルのポーズは何も表してはいない。しかしモデルと背景を区切る輪郭線は幾層にも分離し肖像を把握するには困難になる。実体をとらえなれない苛立ちが鑑賞者を絵画に向かわす。
イメージがブレていることで有名な作品はジャコモ・バッツラの「鎖に繋がれた犬のダイナミズム」が思い浮かぶ。犬の足は扇風機の回転する羽根ように見え、鎖はのたうち回っている。未来派の特徴である「平面の時間運動表現」である。
しかし山内さんのこのブレ表現には「時間運動のダイナミズム」は感じられない。むしろダイナミズムとは程遠い。モデルが動いているのではなく作者の目が動いているのだ。
見ようとするモデルを作者の目はとらえきれていない。とらえきれない不安さ。「本当に目の前にモデルがいるのか?」彫刻とは異なり視覚による世界把握は常に不安定である。瞬きの間に世界は変わるかもしれない。視覚は蜃気楼のような、あらゆるものを見せてきたから。
実体に届かない視覚の不安感が現代の人間関係の不安さにも表れるのか、パステル色のやさしさがそのように思わせる。
報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室