昨年12月10日から15日まで、前川奈緒美さん (美術学科専攻科98修了)の個展がOギャラリーeyesで行われました。
強烈な色面と引っ掻くようなドローイングで構成された絵画は、その荒々しさから鑑賞者に強い印象を与える。上から下に向け太い筆で一気に振り下ろしたような色の痕跡は、複数の色彩が重なり合いその特性により絵画の独自な空間が生まれている。画面上に描かれた太い線は、絵具の厚みやかすれが表出し層をなし色彩の関連性で複雑な表情を作り出している。
作品をよく見ると絵具がない部分があるが、その場所は基底材としてのキャンパスの構造が見えている。キャンパスは麻を織り込んでいるので表面には凹凸がありその部分に絵具が留まり、キャンパスのテクスチャーを表象している。その上の層の絵具は硬質のつるっとした質感が表れている。これらの表面は画面上でおこる偶然の出来事のため、制作者は身振りを最小限の方法である上から下に描く方法、それを選択したのだろう。
それが次のドローイングに表れている。ペインティングした後、その画面を引っ掻くように描かれている。その線は強く短いストロークで鋭角に描かれているが、描くといっても絵具を画面に置くのではなく、色面の絵具を削り取るように描いているのである。
この鋭いストロークは、色面を制作するときの身振りとは異なり、非常に感情的で肩、腕、手首の関節を複雑に運動させイメージを作り出している。作品全体からアクティブなものを感じることができるが、それはペインティングとドローイングの身振りの違いから生まれてくるものであったと思う。
報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室