2013年3月21日

前田裕之展 (美術学科09卒) 番画廊 8/27~9/1

前田さんの作品は水性木版で制作されています。
モノクロームにより着色されたイメージが幾層にも重なり、濃淡を表出させています。
有機的な形態と縦横に走る直線の交差がこの画面を作っています。 

木版画作品は、版木の木目と材質感が紙に写取られ、その中にどのようなイメージが描かれ着色されているかを鑑賞者は見ます。
前田さんの作品をよく見ると、写取られた版木の肌はべニヤ板の表情をしています。
ベニヤ板にある木目は自然木のものとは異なりまた表面の肌合いも違います。 
私がこの作品を見て感じたことは木版の特徴である木の年輪を、ベニヤ板を有機的に加工しその形を版とし、それを複数回重ねることにより自然木とは異なる年輪を表象しているように感じました。
この作業は、木版の特徴を解体し再構成しているようにも見えます。それに加え縦横に走る線が有機的形態の自由さに歯止めをかけ、画面全体に安定した面を作り出しています。 
有機的な形態の重なりは、形態内が縦横のグリッド線により作られているため、透過し重なり合った状態が見え、重さは感じることはありません。

一つ一つの形態が背景と明確な関係にはないので、それは鑑賞者にとって曖昧なイメージとなって表れます。
空間に関しては、色彩の濃淡により画面に奥行きも知覚されますが、むしろグリッド線により縦横の空間として引き伸ばされます。 
グリッド線を見てみます。規則正しく一定の太さを持った線ではなく、一本の線にも幅の違いや消失が見られます。
これにより画面に柔らかさが生まれ、また作者の手跡らしきものを感じる事ができました。 
作品は56×56・と全て統一され一定の間隔で展示してあることで、ギャラリー内に安定した知的空間を作り出していたと思います。

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室