2008年10月24日

陶芸家・前田昭博氏 特別講義「わたしのしてきた仕事」

本日、芸術情報センターでは陶芸家・前田昭博氏の特別講義『わたしのしてきた仕事』が行われました。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
前田昭博さんは1977年に大阪芸術大学・工芸学科を卒業され、その後、海外でも作品が評価されるなど作品展を多数開催されている白磁作家です。昨年、紫綬褒章を受賞され、12月から今年2月にかけて行われた、東京国際近代美術館の「開館30周年記念展II 工芸の力 ―21世紀の展望―」では招待出品、現在、文化庁や東京国際近代美術館前田昭博さんの作品『白磁面取壺』が所蔵されるなど、日本の名工の一人としてご活躍です。
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今日久しぶりに大学を訪れてみて、在学当時とは違って実習室も広くなり設備も充実していることに驚いたそうです。昔は轆轤を3?4人でまわして使っていたりしていたこともあったそうです。在学して陶芸と染織を専攻していたそうです。もともと美術が得意だったので染織の方が良い点数をとれたそうで、陶芸は大学に入って初めて経験したそうです。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
当時、隣で轆轤を挽いていた同級生が陶芸家の息子。技術レベルの差を強く感じたそうです。轆轤がうまく挽けない。「陶芸を選んだのは間違いだったかなー」と思い、大学に来るのが嫌になったこともあったそうです。当時、彼女はいない、モテない、仕送りはパチンコで負けてしまってお金もない。ただ時間だけがたくさんあったことがキッカケで、朝から晩まで轆轤に向かっていたんだそうです。2、3ヶ月もするとヘタクソだった自分が隣の轆轤と互角に挽けているのに気付いて、そこから陶芸が面白くなってきたんだそうです。轆轤は体で覚える。辛抱は大切です、とおっっしゃっていました。

2年生の終わりに白磁と出会ったそうです。冬に降る雪の真っ白な世界に感動したことがあったが、白く美しい白磁は雪景色と同じくらい感動したそうです。磁器の土は粒子が細かく、それまでの粘土で(の制作で)できていたことができない難しい土。この土を制覇したい。卒業制作では白磁で大きな壺をつくりたい、そう思って夢中になって取り組んだそうです。
当時、大学では「学生は個展を開いてはいけない」というキメゴトがあったそうです。「もう時効だと思うので人見先生、すいません」と謝ってから、学生時代にやった初個展の話をしてくれました。コッソリ地元・鳥取で行った個展は好評で、新聞にも取り上げられたそうです。見に来ていただいた方にいただいた「次の作品も見てみたい」、その言葉に背中を押され、そこから前田昭博さんの陶芸人生が続きます。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
卒業後は地元に戻り「1年だけやってみよう」と、一人で陶芸を続けたそうです。土との格闘。失敗の連続。陶芸の産地でもない鳥取には周りに技術的なことを聞ける人もいない。試行錯誤しながら土の性質を知ること。それを続けていかれたそうです。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
「地元での2回目の個展。1回目よりたくさんの人に来てもらうことができた。初めて作品を買ってもらうことができたのもこの個展。見ていただくこともいいが、お金を出して買ってもらうというのは、やっと認められたような感じがした」と、お話されていました。
公募展にも積極的に応募していたそうです。自分は陶芸をやめたら何もなくなる。だから公募展で入賞すればそれは「もう少し陶芸を続けていいよ」という指標だと思い、応募していたんだそうです。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
卒業後14年が経った1991年、第十一回日本陶芸展で「優秀作品賞」を受賞され、自分でもすごくビックリしたとおっしゃっていました。自分では「まだまだダメなんだ」と思いながらコツコツ続けてきた陶芸。その頃には一生、陶芸を続けていきたいと思うようになっていたんだそうです。

前田昭博さんは、「これまでの陶歴は自分が陶芸家になるために結果的に一番早道だったような気がしている。数々の失敗の中から『自分のやりかた』を見つけられたんだと思う。(制作にあたり他から刺激を)入れるだけではなく、作家は『出すこと』をしなければいけない。たった一人で続けてきた陶芸の環境は、自分なりの表現を生み出すのには良かったのかもしれない。『いろんな技術を知らないこと』が逆に幸いしているように思う」と、これまでのご自身のお仕事をお話されていました。
前田昭博 陶芸家 富本憲吉 白磁 磁器
講演はその後、ご自身の制作現場の様子のご紹介と、陶芸家・富本憲吉氏のお話が続けられました。「文様から文様を作らず」、クリエイティブ論とも言えるその言葉に込められた深い思いと、前田昭博さんとの共通した思いをわかりやすくお話いただきました。

「話の呼吸」のせいなのか、ひとつひとつがわかり易い丁寧な話ぶりから、轆轤に向かう前田昭博さんの真摯な様子を想像できました。前田昭博さんのお話は、どこをとっても驕ることのない控えめなお人柄が表れていました。やわらかく、やさしい曲線を生み出す「美の技」を持つ人はこうあってほしい、そんな期待を裏切らない前田昭博氏の特別講義でした。

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