泉茂の回顧展が、和歌山県立近代美術館と大阪の2つの現代美術ギャラリーで、ほぼ同時期に行われています。その大阪のギャラリーでの企画展「泉茂 PAINTINGS 1971-93」の関連企画として、植野比佐見氏(和歌山県立近代美術館 学芸員)によるトークイベントが行われました。
「泉茂 ハンサムな絵のつくりかた」と題されたトークイベントでは、戦後すぐから、デモクラートや欧米の渡航期を経て、大阪芸術大学の教授の期間や退職後亡くなるまでの泉茂の作品と動向を追いながら、一時間にわたりお話ししていただきました。泉の全体像を知ることは大変有意義な経験であったと思います。
今回は、この企画を立ち上げた一人である現代美術ギャラリーthe three konohanaの代表で、大阪芸術大学芸術計画学科でも教鞭をとっていただいている山中俊広氏に、展覧会の企画について語っていただきます。
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本展は、主に若手・中堅の現存の現代美術作家を扱っているYoshimi Artsとthe three konohana、大阪の2つのコマーシャルギャラリーの共催による展覧会です。いま現在の美術の表現を取り上げ、マーケットと共にその将来の価値を作っていく立場である私たちにとって、今回の物故作家を取り扱うことはただ単焦点的に過去の評価を積み上げる目的に留まらず、日本の現代美術が積み重ねてきた長い時間軸で捉え、歴史のつながりとしての辻褄を具体的に作っていくことだと考えます。
泉茂は、戦後すぐに「デモクラート美術家協会」を結成し、その活動に深くかかわり、版画技術の普及や大阪芸術大学での後進の育成など、関西の現代美術界の活性化に大きく貢献した人物です。しかし、そうした活動面や人物像には以前から焦点が向けられてきた一方で、作品を通じての作家としての側面への分析や評価は、泉の死後20年以上が経つものの、遅れを取っている状況でした。そういう現状から、和歌山の展示と2ギャラリーでの展示では、共に泉の作品そのものに焦点が向けられる機会にしたいという意思を、開催前から美術館側とギャラリー側の双方で共有することができました。両者の協力体制による展覧会が事実上実現し、この度和歌山の展覧会の担当学芸員の植野氏にお越しいただいてのトークイベントも、弊廊にて開催する機会を得られました。
泉の作品の評価が進まなかった理由は、和歌山の包括的な展示構成からもよく読み取れますが、泉は非常に短い周期で表層的な表現スタイルを転換し続けていたことが大きいと思います。デモクラート時代に長い時間を共にした瑛九から言われてきた、自らが権威になってはいけないという言葉を、泉が守り続けていたこともあると思います。泉は当時の平面表現の主流から常に距離を保ちながら、平面表現の本質の探求に向き合い続けていた作家でした。その泉の表現への姿勢とその思考は、死後20年余りが経ったいま、現代の私たちの時代の表現の問題意識に通底するものが随所に見られます。特にYoshimi Artsとthe three konohanaで展示している1970年代以降の絵画作品には、作家の精神や感情、そして身体性といった主観的な要素から作品と距離を置く姿勢が一貫して見られ、この表現のスタンスは今の若い世代である20代、30代の作家に頻繁にみられる傾向でもありました。ただ時代が一回りしたという印象だけではなく、時代の流行に留まらず、美術表現の本質を時代の向こう側に追い求めていた泉の意志が今の時代と結びつくのは、当然の理とも言えるでしょう。
私の大学での授業でも、現代の表現というものは常に更新され続けており、過去を無自覚になぞったり受け入れたりするのではなく、自らの経験や自らの時代の社会の動向に対して自覚と批判精神をもって思考し続けることで得られるものだということを、常々話しています。過去というものの扱いについては、教育の現場のみならず美術の現場にも矛盾を感じることが多々あります。価値が確立した権威としての過去でもなく、また埃のかぶった時代遅れの過去とも捉えるべきではありません。現代の私たちの動向の価値を探るためにも、誰もが容易に引用し、活用できる過去であるべきで、だからこそ過去を歴史という名で価値のあるものと位置づけていくことは必要です。泉茂の生涯にわたる作品の変遷は、植野氏のお話でも多数触れられていた通り、その時代の出来事や泉本人の経験と深く結びついているものです。その変遷の分析や解釈がさらに進むことによって、泉茂本人への再評価と共に、私たちのいまの時代の表現のあり方にも多くのヒントを与えてくれるものになると思います。
the three konohana 代表/芸術計画学科 非常勤講師 山中俊広
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泉茂「PAINTINGS 1971-93」
会期|2017年2月25日(土)~3月26日(日)
会場|Yoshimi Arts、the three konohana (2会場で共同開催 )
Yoshimi Arts
開廊時間|11:00-19:00
休廊|火・水・3月16日(木)~20日(月)
大阪市西区江戸堀1-8-24 若狭ビル3F TEL.06-6443-0080
http://www.yoshimiarts.com
the three konohana
開廊時間|12:00-19:00
休廊|月・火・水
大阪市此花区梅香1-23-23-2F TEL.06-7502-4115
http://thethree.net
報告 教養課程講師 加藤隆明