「虫の家」「風がゆく」「雨音」など、身近な情景が作品タイトルになった石彫が会場に並ぶ。
これらの作品の特徴は、大理石の量塊から内と外の空間を掘り出していることにある。
彫刻の歴史に量塊が空間を取り込む歴史がある。
田中先生の彫刻作品は、量塊から内と外の空間、鑑者から見える表面と覗かないと見えない内部表面を制作し、量感のない表層だけの彫刻を造る。
内と外その二つの表面を繋ぐように穴や刻む線がある。
タイトルにあるように、情景を大理石に刻み込むだけでなく、風のように間接的にしか見えない風景も現わす。
鋭く刻み込まれた線の集積によりその風の様子を感じることができる。
「雨音」と題された作品を見る。
磨かれた大理石の表面に大きさの異なる穴が開けられ、周辺には雨降る情感が伝わるような刻み跡、その背後には雨雲をイメージしたような形態がある。
石彫の量隗感は感じず、牧歌的でかわいらしい石に刻まれた子供のころの情景がここにあった。
報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室