2014年8月19日

田中昇 石彫展 (美術学科元教授) 画廊ぶらんしゅ 6/18-/28

「虫の家」「風がゆく」「雨音」など、身近な情景が作品タイトルになった石彫が会場に並ぶ。

これらの作品の特徴は、大理石の量塊から内と外の空間を掘り出していることにある。
彫刻の歴史に量塊が空間を取り込む歴史がある。

田中先生の彫刻作品は、量塊から内と外の空間、鑑者から見える表面と覗かないと見えない内部表面を制作し、量感のない表層だけの彫刻を造る。

内と外その二つの表面を繋ぐように穴や刻む線がある。
タイトルにあるように、情景を大理石に刻み込むだけでなく、風のように間接的にしか見えない風景も現わす。
鋭く刻み込まれた線の集積によりその風の様子を感じることができる。

「雨音」と題された作品を見る。
磨かれた大理石の表面に大きさの異なる穴が開けられ、周辺には雨降る情感が伝わるような刻み跡、その背後には雨雲をイメージしたような形態がある。


石彫の量隗感は感じず、牧歌的でかわいらしい石に刻まれた子供のころの情景がここにあった。

報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室


2014年8月14日

館 勝生展 (美術学科87年度卒) ギャラリー白  5/19-/31

44歳で亡くなられた館さんの企画展である。
ギャラリーには制作年が異なる3作品が展示してあった。
この展示空間は100号キャンバス6点以上の平面作品を展示することが可能である。
しかし、小品を入れて3点での展示は、作品との関係が濃密に体験できる場となっていた。

 

群青色を上から下に垂れるように太い筆で引き、それを背景にキャンバスに置かれた絵具の塊に筆を入れ、素早いストロークで画面に痕跡を作り出す。
そのストロークは翅のある昆虫のようなイメージを浮かび上がらせる。
背景とイメージを切り分けようとする線は昆虫頭部に見えるストロークとは異なり慎重な筆の動きを見せる。

 

背景と同じような直線的ストロークで描き出された色面は、慎重な筆の痕跡によって面を分けられる。
絵具の量により画面の質が異なる。
ヌルッとした絵具の質感と薄く溶かれた絵具による滲みの面、その交差により生まれる視覚効果。

 

キャンバス地そのものが背景にあり、飛び散る滲みの斑と素早く動き回るストロークの痕跡で構成された絵画。
ストロークと斑点により翅のある生命体のようにも見えるが、この作品に私は、抽象的形態と具象的形態が入れ替わり続けるさまを見た。
子供の絵に身体行為から偶然描かれたイメージを、途中から「知っているもの」との関連で名づけながら描くことがある。
館氏の絵画には、描くことの原初の体験を見ているように思えた。

報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室


2014年8月12日

尼崎アートフェスティバル2014 7/26-8/24

尼崎アートフェスティバル2014が尼崎市総合文化センター美術ホール5F・4Fで行われます。
この企画展の出品者は76名ですがその半数以上は大阪芸術大学グループの卒業生や教員です。
これだけの卒業生や教員が参加する美術展は他にありません。

参加者は、最近の卒業生から60歳をこえた人たち、また作品も多様であり大阪芸術大学の歴史を感じることができます。

出品者が学生だったころの美術の動向は年代によりそれぞれ異なります。
在学中から国際的な美術コンテストで入選や受賞した人たちも出品しています。
その後数十年たち作品がどのような変化をしたのかを見るのも楽しみの一つでしょう。
出品者一人一人の時代と美術との関わりは異なりますが、それがこのような展覧会で鑑賞できることは興味深いことだと思います。

今後、在校生も卒業後、この展覧会に参加し活躍してもらえることを先輩たちは楽しみにしています。

写真は展覧会の企画運営者の1人である吉田廣喜氏(F-1・1971年美術学科入学)です。

※写真は作品展示の様子です。展覧会期間中は会場の撮影は禁止されています。

報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室


2014年6月19日

中原裕美展(美術学科07年度卒) ギャラリーH.O.T   4/28-5/10

版画によって覆いつくされた壁、プリントされた和紙が隙間なくピンで留められている。
反復するイメージに丸みを帯びた「かわいいもの」が刷られている。
画面はカラフルで一つの版から144枚が刷られている。


展覧会のタイトルに「POP」とあった。
作者は日常的に使用する「POP」と美術に使われるのとでは内容が異なると考えた。
そしてより今の生活の中にある「POP」を表現したかったという。

今日あるPOPとは、日頃よく出かけるカラフルで雑多な物がぎっしり隙間なく並ぶ場所。
大型スーパーマーケットやユニクロ、百均ショップなどがそうである。
キャラクターグッズで埋め尽くされたホテルの部屋、その室内は壁一面にキッチュな壁紙が貼られ、子供が異世界に飛び込みたくなるようなワクワク感を演出するような場所。
中原さんは、そのようなところにPOP感覚を見出している。


確かにそのようにも感じ取れるが、しかしこの作品を体験したならば、その向こうにあるものと出合うように思える。
和紙に木版でプリントしていることで、それはもうチープな壁紙になりえない。
複製芸術である版画においてアウラ喪失はありうることだが、現代の壁紙と木版プリントの比較では、木版画にアウラが蘇ってくる。144枚の木版画で構成された空間は、鑑者を包み込むように圧倒的な版画の力を放出している。

一枚一枚の版画を見ると、アンディ・ウォーホルのようなシルクスクリーンでの刷残しやズレ表現など、巧妙に真似ているところが見えてくる。
木版画性とその媒体の歴史が壁紙POPと一線を置いているように思えた。

報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室


2014年6月12日

沖田惠夢展(大学院14年度修了) ギャラリーコラージュ 3/25-30

鍛金手法で制作された金属工芸の作品である。
鍋、小間物入れからオブジェにいたる「かわいい」小品が展示し,ギャラリー空間と作品の展示関係もうまく整理されていた。


柿の形の小間物入れの作品は、鍛金という古代ギリシャから伝わるとされる手法により制作されている。
しかしイメージは現在性同時代性の感覚が反映されて、伝統的手法と現代的イメージが交差した作品となっている。
柿形の小物入れをみる。鍛金で形作られた作品の内側には膠で金箔が貼られているが、明らかに鎚で叩かれた痕跡を残している。
一つ一つの痕跡に作り手の息吹を感じる。

外側の面には煮色仕上げという技法により、小豆色に覆われ深い渋みを作りだしている。ヘタに当たるところは暗い腐食色で仕上げられている。
全体にかわいらしさが漂うが、金属から生まれた色が表面を覆うため、物質と色彩の一体感を感じる。

内が金箔で覆われているため、ヘタを持ち上げたときに、外から入った光が金箔に反射し内なる場所を輝かせるように作られ、驚きと神秘性を感じ取るようにある。

キノコの作品は実用的ではなくオブジェとしてある。その作品の表面色彩も、煮色手法により制作されている。着色では生まれない色の深みを感じる。
近年、美術と工芸の領域が曖昧になりつつあるが、やはり双方の素材の歴史は異なり、その歴史の違いが工芸を工芸足らしめていると思えた。

報告 教養課程講師加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室