版画によって覆いつくされた壁、プリントされた和紙が隙間なくピンで留められている。
反復するイメージに丸みを帯びた「かわいいもの」が刷られている。
画面はカラフルで一つの版から144枚が刷られている。
展覧会のタイトルに「POP」とあった。
作者は日常的に使用する「POP」と美術に使われるのとでは内容が異なると考えた。
そしてより今の生活の中にある「POP」を表現したかったという。
今日あるPOPとは、日頃よく出かけるカラフルで雑多な物がぎっしり隙間なく並ぶ場所。
大型スーパーマーケットやユニクロ、百均ショップなどがそうである。
キャラクターグッズで埋め尽くされたホテルの部屋、その室内は壁一面にキッチュな壁紙が貼られ、子供が異世界に飛び込みたくなるようなワクワク感を演出するような場所。
中原さんは、そのようなところにPOP感覚を見出している。
確かにそのようにも感じ取れるが、しかしこの作品を体験したならば、その向こうにあるものと出合うように思える。
和紙に木版でプリントしていることで、それはもうチープな壁紙になりえない。
複製芸術である版画においてアウラ喪失はありうることだが、現代の壁紙と木版プリントの比較では、木版画にアウラが蘇ってくる。144枚の木版画で構成された空間は、鑑者を包み込むように圧倒的な版画の力を放出している。
一枚一枚の版画を見ると、アンディ・ウォーホルのようなシルクスクリーンでの刷残しやズレ表現など、巧妙に真似ているところが見えてくる。
木版画性とその媒体の歴史が壁紙POPと一線を置いているように思えた。
報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室