2011年10月25日

「生誕100年 津高和一 架空通信テント展」 西宮市大谷記念美術館 (前)

katou111024000.jpg元美術学科教授、津高和一先生の「社会と芸術を繋ぐ」試みとして行われてきた架空通信テント展の資料や作品の展示が、 10月8日(土)から11月27日(日)まで行なわれています。 

katou111024004.jpg架空通信テント展とは、阪急甲陽線の苦楽園口駅すぐそばの公園の河川敷に、全長90mにおよぶ長大なテントを設営しそこを展覧会場として始まったのがこの野外展覧会です。1980年から5年間続けられ、筆者も何度か参加させていただきました。

katou111024002.jpg巨大なテントの中、テント側面の骨組みに平面作品を展示したり、地面には直接立体作品を置くなどの展示が行なわれていました。建築内の展示場とは異なって、テント生地を通過した肌色に似た柔らかい光が作品を包むなどし、作品は今までとは少し異なった見え方をしていたのを覚えています。テントそのものを作品としたものには、テントから飛び出した三角形の彫刻、テントをロープで縛った作品(テントを贈り物として見立てていると感じられる作品)などが出現していました。
 また、野外では、公園の環境に適した創作活動やパフォーマンスなどが展開され、公園に挟まれるように流れる夙川にロープを渡し、川と平行し直径5センチ長さ20メートルほどの発泡ウレタンの円筒状を20本程度張り巡らした「川の流れ」を抽象化した作品や、公園に架空の夙川遺跡を出現させた作品などサイトスペシフィックな作品も数多く見られました。

katou111024003.jpg展覧会期間には、ワークショップなども登場し、元写真学科教授の井上青龍先生なども活躍されていました。

katou111024001.jpgこのような一時的に出現したサーカス的非日常空間では、多くの子ども達や親子連れで終日賑わっていました。現代アートと云われる一見難解そうで敷居の高そうなものを専門領域ということに閉じ込めないで、いかに多くの人たちとの開かれた共有体験にしていくかがこの企画の重要なところであると思います。

katou111024005.jpg何よりも社会的場所に、アートの開かれた場を作っていくことの楽しみを、多くの人と共有できた事が良かったのではないかと思っています。是非、学生の皆さんもこの展覧会に足を運んでいただき、30年前の大芸生のエネルギーに触れていただけたらと思います。

今回の写真は、美術館の了解のもと掲載しています。
西宮市大谷記念美術館 http://otanimuseum.jp/home/

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室
 


2011年10月22日

自由研究発表会 アストロ温泉・山田聡  門真市市民文化会館

yamada 005.jpg アストロ温泉鈴木さん(大学院芸術研究科芸術制作専攻10修了)と山田聡さん(芸術計画学科08卒)の作品発表が9月7日から11日まで門真市民文化会館ルミエールホール2F展示ホールで行なわれました。展示では、山田さんは映像で床にモニターを複数並べての上映と壁一面に映像を投影しての作品です。アストロ温泉さんの作品は、ホームセンター等で身近に購入可能な材料を駆使した楽器や自動ドローイング器のような、ビジュアル的にも興味を惹かれる形態で作られています。
 

 

yamada 002.jpg山田聡さんの映像作品の一つは、一つのモニター画面を4分割しそれぞれが同一のイメージを異なる時間で流し続けるものです。映像素材は川の表面が撮影されており、それを左右からの流れを上下での流れに変換して上映していました。モニターは、観者の視線の高さではなく床に直接置いてあり、見下ろす状態で作品を体験するか座ってほぼ水平に観賞するようになっています。映像を見る行為に、自らの体が関っていることを感じざるを得ませんでした。モニターには、明るい光と暗部のヌラリとしたイメージが奇妙な運動を続けることで、現実とは異なる不思議な視覚体験をすることができました。

 

yamada 001.jpgアストロ温泉さんの作品は、楽器など道具への純粋性合理性の探求ではなく、それのフロク的拡張を魅力としているようです。道具形態へのフェティズム的快楽になりきれない、あるいは、不条理さすら感じ笑えてしまう作品であったと思います。自動書記的道具はシュールレアリスムの自動筆記やオートマティスムを連想させますが、それらのおどろおどろしい神秘性より可愛らしさに親しみやすさを覚えてしまいます。この機械の目的がただただ円を描くという、アーティストには描く為の訓練に見えるものが、この機械の機能は、誰の為にも役に立たない作業を行なうことであり、純粋芸術を皮肉っているようにもみえます。

 

yamada 003.jpg今回の自由研究発表会と云うタイトルから、彼らが小学生の頃子、夏休みの自由工作が不十分なまま提出したことを後悔し、卒業後その宿題を求められなくても、勝手に世の中に発表している2人の子供達(アーティスト)を見たようでした。

 

yamada 004.jpgアストロ温泉さんの作品で演奏中の鈴木さんと山田さんです。

 

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室
 


2011年10月19日

『はばたけ一寸法師』

ashukunn000.jpg 10月16日(日)午後1時から午後4時まで、安立小学校正門前の安立霰松原公園で『はばたけ一寸法師』(主催・一寸法師実行委員会)という催しが行われました。
 なぜ、安立で一寸法師? と思う人もいるかもしれません。
その理由は一寸法師に出てくる子宝祈願の神社が住吉大社で、その近くにある安立商店街には針を売る店がたくさんあったことから、刀の代わりに針を差していた一寸法師のゆかりの街ということになったそうです。

ashukun000.jpg安立商店街には一寸法師のゆかりの街というフラッグがたくさん飾られていますが、そのキャラクター“あんりゅーくん”を考案したのがキャラクター造形学科一期生の山瀬鷹衡さんです。
 今回『はばたけ一寸法師』の来場者の中から、抽選で50名の方に“あんりゅーくん”のストラップが当たる抽選会が開催されました。

 当日は12時45分からよさこいソーランパレードが始まり、会場の霰松原公園では紙芝居『翔け!一寸法師』や住吉大社宮司による安立町と一寸法師のお話などがありました。

 

ashukunn002.jpg※キャラクター造形学科からのお知らせ
21号館101教室の展示スペースでは10月17日から『アニメに見るキャラクター』展、10月24日から『近鉄バファローズに見るキャラクターグッズ』展が開催されます。

投稿:林日出夫先生(キャラクター造形学科)


2011年10月18日

心をこめて撮る    杉山寛高 写真展 「Works × Photo」

 金剛山の麓、豊かな自然に恵まれた富田林市に、生涯を懸けてものづくりに打ち込む人々がいます。江戸時代から良質の竹に恵まれたこの地で作られた竹細工や簾を、100年以上経った今も脈々とその伝統技術を受け継ぎ、作り続けている職人たち。
 その手仕事のひたむきさ、優しさ、繊細さを写真に焼き付けようと、半年以上もの時間をかけて追い続けた杉山寛高さん。
本学の写真学科で写真を学びながら、学外で様々なイベントや現代アートの作品を撮影したり、富田林市の広報でも写真を担当したりと、多方面で活動しています。その内容は芸大のブログ等で取り上げられ、デザインや美術の分野で作品を発表する学生たちにコラボを希望される、人気の学生カメラマンです。
また、東日本の大震災ではこの未曾有の被災状況を次代の若者に伝えるため、ひとり夜行バスで駆けつけ、しゃにむに記録写真を撮っていた仕事人でもあります

toshokann 004.jpg 今回、本学図書館がご紹介する写真展「Works×Photo」は、杉山さんが、半世紀にわたって簾作りひと筋に生きてきた職人の仕事を写真に撮り、作品にしたものです。

toshokan000.jpg本物にこだわる彼は、職人たちの生活や仕事にふれてみて、そのまっすぐな生き方をカメラにとらえました。シャッターを切るときは一瞬ですが、その前にたっぷりと時間をかけて被写体と向き合ったところに、杉山さんのカメラマン魂が窺えます。

toshokann 001.jpg簾作りの丹念な工程を目にして職人たちの矜持を感じ取った彼が、こころを込めて撮った渾身の作品。館内の書架に展示された一枚、一枚の写真から、プロを目指す杉山さんの強い意志が伝わるのでしょうか、作品はもとより、撮影した杉山さんに、見に来られた人たちの関心が集まっていました。

toshokann 002.jpg優れた伝統技術もさることながら、ものづくりに込められた職人のひたむきな情熱と、それをこころから撮りたいと思った杉山さんのストレートな気持ちが響きあって、4階の閲覧室のコーナーは時間が止まったような、ものを愛おしむ優しい空気が漂っています。

toshokann 003.jpg展示された11枚の写真は簾が出来上がっていく工程を写しています。写真を追ううちに、簾を通して差し込んでくる柔らかな陽の光がイメージされて、懐かしさがふっと込み上げてきました。

toshokann 000.jpg写真では伝えきれない。それでも、写真で伝えたい。
歴史や匂い、感情や宇宙との一体感などが写真でどこまで伝えられるのか、すべてを伝えることは限りなく難しいこと…。
それでも、写真を見てくれた人がこころの真っ芯で受け止めてくれるような写真を撮りたい、と志す杉山さんのメッセージです。

―「いいモノを作るには、まず「想う」事が重要です。モノと真摯に向き合い、理解し、ここに「技術」が合わさる事でモノは形づくられるのだと思います。この過程を、一言で語ることはできませんが、少しでも私の写真を通して伝えることが出来れば幸いです。」―
杉山寛高 写真学科3回生
(撮影:上田悠暉 写真学科3回生)

 
簾作りに懸ける職人と、こころに残る写真を追求する杉山さん。両者の仕事へのひたむきさが伝わる写真をぜひ一度ご覧ください。ゆったりとした時間とともに、自分の進む道が見えてくるかも知れません。

※ ここにご紹介した写真は、今年2月に富田林市寺内町で開催された「春ふわり寺内町 ― 歴史とアートであったまろ ―」
(大阪金剛簾プロジェクト)のすだれ製作体験の会場で、「大阪金剛簾」製作の風景写真として展示されたものです。

現在、大阪芸術大学図書館4階閲覧室で展示中
 


2011年10月17日

浅野綾花個展   番画廊

bangaro04.jpg 8月29日から9月3日まで行なわれました。浅野綾花さん(美術学科08卒)の作品は、版画で画面全体の下半分にイメージが刷られ、上半分は余白のままで、それ以外の作品も余白の印象が強い作品構成になっていました。
 

bangaro02.jpg 作品の画面中央を走る曲線は、六甲山など具体的な身近な山の稜線を表しているとのことです。また、稜線から下部には俯瞰した町並みのようなあるいは積み上げられた抽象模様のようなものが描かれています。

 

bangaro00.jpg 画面の一部に、自画像が描かれておりその周りが自身の生活環境にも見えることからプライベートな物語として読むことができます。観賞方法としては、観者が画面の中を、視線を動かして周辺を楽しむように散歩することが出来ます。散歩の途中には、抽象模様、具体的イメージ、英語表記、日本語表記等が混在とし、見る行為、読み行為を唐突に体験させられます。私たちが作品を見ることは多様な能力を発揮し作品と向き合っていることに気がつかされます。

 
bangaro01.jpg 抽象模様の中には、アーティストの年齢の同時代的女性性の模様を窺えるものがあり、また日本語では今流行のツイッターを思わせる内容の文章が書かれ、英語表記では、何らかの看板やコマーシャルをイメージさせるものとなっています。

 

 

 浅野さんの作品の説明(プレゼンテーション)はかなり訓練した様子が窺われました。その解説では、画面余白部分やイメージの表記の差(抽象/具象)/(日本語表記/英語表記)は、観者と共同でこの作品を作り上げる意思が働いていることに興味深いもの感じました。

報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究