井上真希さん(大学院芸術制作研究科06修了)の個展が9月19日から10月1日まで行なわれました。
会場に入った途端、奇妙な緊張感に襲われました。井上さんの作品は青い白を基調とした背景と、それに吸い込まれそうな同色の少女、その少女と寄り添うようにあるいは少女の体を乗っ取るように動物や昆虫が描かれています。はじめに受けた奇妙な緊張感とは、イメージの背景にある青みを帯びた白と何かに凍り付いたように見える少女が目に入ったからだと思います。
横を向いて座る少女と毅然として前を見つめる鹿では構成と描き方に大きな違いが見られます。まず、少女の座った状態と鹿の立ち姿の組み合わせは日常的なポーズの構成ではありません。何か明確な意志を観者に伝える為このようになっていると思われます。また、鹿は細かい描写を丹念に重ねています。しかし少女の服は白っぽく背景にとけ込むように描かれ、皮膚も青白く生気を感ずることはできません。また、画面中央に占める髪の黒さが彼女の頭部や身体から遊離し、それに鹿の体の一部を隠すことで、何か得体の知れない物体に感じます。
少女の無彩色の部分と有彩色の鹿の比較により、私たちには鹿のイメージの強さを感じ、背景と同色の少女には弱さを感じます。
しかし、それ以上にこの不自然なポーズ、少女と鹿の双方が、無関係のまま同じ空間にあるように感じます。どこからか切り取られた二つのイメージを張り合わされたコラージュ作品のように。作品からは、少女と鹿は折り合わない存在として私には見え、それが現代社会に生きる人間の様にも感じました。
また、折り合わないだけでなく、自然、動物、昆虫、植物など、私にとって親しみ深いものが実は他者であり無関係に存在するものです。その悲しみを、少女の描写から窺い知れたと思います。
報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室