神尾康孝写真展「-交差する、視線-」より 図書館3階閲覧室にて開催中
闇の中に写し出されたトンネル。その先はどこへつながっているのだろうか。
写真作家、神尾康孝さん(本学大学院博士課程(後期) 芸術制作デザイン(写真)領域在学中)の作品「Wormholes」を目にすると、観客は知的に抑制されたモノクロームの世界に吸い込まれてしまう。作品の根底に作家の深い思索があるためだろうか。 ここでは、どこが入り口で、どこが出口なのかは問題ではない。神尾さんの目(ファインダー)を通して写し込まれたトンネルは、私たちがトンネルにもつイメージを深層から揺るがした。観客は気づく。彼が写真を通して何を表現しようとしているのか。そこにあるものを“見る”ということと、“見える”ということを意識し「撮る」ことで、写真は芸術の領域に昇華し得るということを。図書館の、無機質なコンクリートの壁に架けられた作品群を見れば、彼の企みが成功していることがわかるだろう。
彼の透明なレンズは、スパイラルに混在するさまざまな事象を、見えるもの=実像と、見えないもの=虚像(それは作家の意識下にあるものかも知れない)までもかたちにして、私たちにほらね、とばかり、未知の世界を呈示した。
神尾さんの撮影現場や制作過程に密着して、現場のスピード感や空気感を撮ってくれたのが、本学大学院卒業生の長谷川朋也さん。作品が出来上がるプロセスを連写して撮り、数枚のパネルにした。フィルムのように連なる写真が効果的だ。作家が作品を創る時のテンションと思索の微妙なバランスが伝わってくる。リアルに徹するカメラマンの視線が伺える作品。
今回、写真展のチラシ及びパネルのデザインを担当したのが近澤優衣さん(本学大学院博士課程(前期) 芸術制作デザイン領域在学中)。
彼女のデザインによって、展示された作品がよりインスパイアされ、観客の前に立ち上がってくるような印象を与えた。
3人のクリエイターがシンクロし、それぞれのポジションで創り上げたこの写真展。本学図書館(3階)の視聴覚資料閲覧室の壁に展示しています。写真家を志す学生やチラシを見て興味をもった学生たちがじっと見入る姿を目にします。CDやDVDを視聴する傍ら、写真を見る人も。
以前、このブログで紹介した図書館で身近にアートの時と同様、図書館を利用する人は芸術的な空気にふれながら、創造する時間を過ごすことができます。まだの方はぜひ、日常の慣性から抜け出し、写真の前に立って彼らの視線を感じとってみて下さい。
Wormholesが過去から未来へと続くパサージュ(交通路)だとしたら、その先にあるものを…。
「Wormholes」を手がけた写真作家の神尾康孝さんに、作品に向き合う時の様子などをインタビューしてみました。
>>Q1.作品の作り込み方を教えて下さい。 「シンプルかつ丁寧に、を意識しました。撮影から暗室作業まで、暗い中でストイックに…いま思えば、『苦行』です(笑)。」
>>Q2.現場の空気感は? 「現場のほとんどが山奥です。月明かりが結構明るくて、木々が風でざわざわしています。トンネルよりも、周りの山が怖いです。」
>>Q3.今後のヴィジョン(次回作など)について 「さて、今後はどうなるんでしょう?(笑)。今はまだ『ゆらゆら』しながら作っています。ただ、シンプルであることと、アナログな写真にはこだわり続けたいと思っています。」
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