三谷豊さん(美術学科95卒)の個展が11月7日から16日まで行なわれました。
画面を墨が覆い、墨の自在なあざむれに多様なイメージを浮かび上がらせ、鑑者の想像を投影させてくれます。子どもの頃の書道体験から曖昧模糊とする墨のにじみに、子どもながら美しさと不思議さを感じていたものです。また、墨のにじみをうまくコントロールできず半紙に墨が収まらず空間のバランスを崩し悔しい思いをした経験もあります。墨の妙を経験した人なら、三谷さんの作品は直感的に理解できると思いました。
作品は墨だけでなく油絵の具やコラージュの手法により、基底面に染み渡る墨だけでなく画面から盛り上がるボリュームも制作されています。画面に浸透する墨、画面から浮き上がる油絵の具、これらで構成された作品は水墨画とも油絵とも異なる深みの空間が生まれ、その深みとともに躍動的飛沫や筆跡に強い力やエネルギーを受け取る事が出来ます。画面は書き残された余白はほぼなく、充足されたエネルギー空間をクローズアップしたような画面が、その強さを高めているようでした。
例えば夜空を眺めているうち、自らがその宇宙に落ちていく感じ、主客が逆転するような感覚が三谷さんの作品から体験する事が出来ます。
作品のイメージは主客の逆転と云うより、主客混合あるいはその状態も存在しない風景が制作されているのかもしれません。
報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室