あたかも手先で切った切り紙のような拙さを感じさせる鉄板構造体の上に、長く伸びた鉄芯が二本横断している。鉄芯の両端には二股のフィンのようなものがある。緩やかな弧を描く鉄芯の中央とその構造体とは一点で接している。
この作品はフィンのようなところに軽く触れると鉄芯は動く仕掛けになっている。モビール構造の彫刻作品である。モビールとは現代美術家のアレクサンダー・カルダーが創始したものであるが、今は一般の家庭の飾り物としても普及しているので多くの人がモビール作品を体験していると思う。
モビールの特徴は微風を取り込み軽やかに動くイメージがある。しかし鋭い支点にささえられた鉄芯は、周りの環境に敏感に反応し動くものではない。ギャラリストの指示に従いフィンのような場所を慎重に触る。その鉄芯はフィンの振動を細かく反復しながら鉄芯伝え、また、全体を大きく上下に繰り返す。その鉄が持つ重さの運動は、微風をとらえる軽やかな動きとはまったく異なる。
鑑賞者は鉄の重量が持つ恐怖感が先立ち、運動中の作品との距離をとるだろう。物理的にも精神的にもである。その距離感が鑑賞者と作品の間に存在する。
重量感あるものが浮遊感とともにゆっくりと運動するようすは、鑑賞者の感覚のスピードに対する感覚が作品と共鳴したりズレたりする。鑑賞者は作品の運動により、自らの身体感覚に注意を払うことになる。
報告 加藤隆明教養課程講師 協力 芸術計画学科研究室