持田総章先生(元美術学科学科長)の絵画版画の展覧会が3月26日から4月24日まで尼信博物館で行なわれています。
展示作品は1960年代の銅版画から2011年の新作まで時間軸で展示してあり、初期の作品から現在まで人間の存在をテーマとされていることが感じられます。
銅版画からシルクスクリーン版画と移行しますが、その時代から平面を逸脱するようになります。一見色彩の重なりと思われるところには複数の作品が重ねられ、表面の重層化の意識が窺えます。現代アートにみられるマンガをモチーフとした絵画では、薄っぺらな表面に現代のリアリティーを感じている反面、この当時の時代的感覚として、表層の重複化に世界の本質を感じていたのではないでしょうか。
近年の作品LOCATIONシリーズでは、版画制作で使用していたフェルトを基底面とし、飛行機や人のイメージを焼付ける方法で制作されています。作品表面には「空気」と印されており、生存のため必要でありながらほぼ意識されない存在としてその空気があり、それは作家の理念と制作行為の双方と同調しています。
ここで考えたいのは過去の作品と現在の作品の関係です。持田先生の近年の作品は過去の作品の積み重ねにより生まれてきている事は理解できます。では観者がそれを見る視点とはそれだけの関係でしょうか。作品は無数のテクストを内包しており、私には、私とその作品とが結びあう独自なテクストが生まれてきているはずです。観者一人一人が異なる結び方をしているかもしれません。そしてそこには常に新しく生まれ変わる作品の姿があるように思えます。
過去から連続する現在の作品群だけでなく、過去の作品も観者との固有の関係で、作品の表情や内容が現在に生まれ変わるはずです。学生の皆様の創作の触発になると思いますので是非御覧下さい。
尼崎信用金庫博物館 http://www.amashin.co.jp/kaikan/index_fr.html
報告 加藤隆明 教養課程講師