10月17日(金)、美術学科と大学院で絵画を学んでいる学生を対象に、特別講義『テンペラ絵具と油絵具を併用する混合技法』が開かれました。
この講義を担当されたのは、東京藝術大学名誉教授・金沢美術大学教授の佐藤一郎先生です。
佐藤先生は画家でありながら、絵画材料学、絵画技術学の研究者としても活躍されている方で、これまでにも多くの展覧会・著書・訳書・論文などを発表されています。
みなさんは絵具と言えば、どんな絵具に馴染みがありますか?大きく分けると、水性のものと油性のものがありますよね。
水性絵具の中には、アカシア樹脂を使用した透明水彩や不透明水彩(ガッシュ、ポスターカラーなど)、アクリル樹脂を展色材とした水性アクリル絵具などがあります。
ちなみに小学生が図画工作で使用しているのは、マット水彩と呼ばれる透明水彩と不透明水彩の中間的な性能を持つ絵具です。
テンペラ絵具は水性絵具の一種で、タマゴ、カゼインといった乳化作用を持つ物質を固着材として利用している絵具です。
絵具が乾けばすぐに塗り重ねていくことができ、数日間乾燥すると水に溶けなくなるのが特徴です。
そして、油性絵具はその名の通り、乾性油を固着材に用いた絵具のこと。
油絵具の他に、漆なども油性絵具に属します。
油絵具は、乾性油が酸化して硬化することで定着します。
他の絵具に比べてツヤがあり、長時間そのツヤを保てるという特徴があります。
さて、前置きが長くなりましたが、この講義のテーマは、そんなテンペラ絵具(水性絵具)と油絵具(油性絵具)を併用する技法です。
まずは絵具の発明から、それぞれの絵具がどのような素材でできていて、どのような性質で、どんな表現ができるのかについて話されました。
また、「人が色を認識するためには、目と物(不透明)の間に必ず空気(透明)がある」と話され、絵画を描くにあたってよりリアルな質感を表現するためには、【不透明】と【透明】両方が必要だということが伝えられました。
混合技法では、テンペラ絵具の不透明さで明るい性質、油絵具の透明さで暗い性質をひとつの画面内で表現することができます。
でも、水と油は交わらないのが自然のルール。
普通は水性絵具と油性絵具を併せて使うことは、あまり好ましくありません。
なぜテンペラ絵具と油絵具の相性がいいのかというと、テンペラ絵具に用いている卵メディウム(卵黄・卵白に乾性油、ワニス、防腐剤を加えたもの)に含まれているレシチンという成分が、水溶性の物質と油溶性の物質の仲立ちをする作用を持っているそうです。
テンペラ絵具を水の含んだ筆で描くと、水分が蒸発して、油絵具に限りなく近い成分になるらしいです。
そして、油絵具はワニスを多く用いた調合溶き油で溶いて使いますが、そのワニスの上にテンペラ絵具を乗せると両者はしっかり接着します。
日本をはじめとした東洋では、油画というと油絵具のみで描くケースがほとんど。
ですが、西洋ではこのような混合技法が盛んに行われているそうです。
多種類の絵具を使うと、絵にコクが出て、より深い作品が生まれるようです。
私たちはついつい一種類の絵具で絵を描いてしまいがちですが、それぞれの絵具の特性を知った上で上手く組み合わせることで、今までになかった表現にたどり着くことができるかも知れませんね!!
投稿:島田(OUA-TV)