2016年9月28日

現代の話芸・サイレント映画の弁士って?

突然ですが、みなさんは「活動弁士」ってご存知ですか?
活動弁士とは、活動写真(サイレント映画)の内容を語りで解説する人のことです。
聞いたことがないという人もいるかも知れませんが、みなさんがごく当たり前に使っている言葉の中には、弁士の言葉が由来となっているものがいくつかあるんですよ!

例えば、”これ以上はもうどうにもならない手遅れな状況”のことを、「一巻の終わり」と言ったりしますよね。
実はこの言葉、弁士の締めの言葉からきているのだそうです。
当時の映画はオープンリールが採用されていて、基本的には一巻に一つの物語がおさめられていたので、上映の終わりに「一巻の終わり~!」と言っていたのだそう。
それが「物事の結末」という意味に結びつくようになり、今のような使われ方をするようになったらしいです。

また、恋人のことを「彼氏」「彼女」と言いますが、この「彼氏」という言葉を考えたのも、弁士の徳川夢声さんという方なんです。
映画を説明する際に「彼氏」という言葉を思いついて用いるようになったのがきっかけで、一種の流行語として人々に好まれ、定着したんですって!

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ということで、今日のブログは、弁士・片岡一郎さんを招いて開かれた特別講義「現代の話芸・サイレント映画の弁士って?」の模様をご紹介します!

19世紀後半、写真技術を元にして、映画の技術が研究されていました。
連続して撮影した写真をパラパラ漫画のように繋げる発想で生まれた映像は、日本では「活動写真」とも呼ばれ、1890年代から公開されるようになりました。
初期の映画はほとんど無声で、ところどころに状況説明や登場人物の台詞<セリフ>を書いた字幕があり、それを元に見進めていく形になっていました。

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欧米から輸入された作品は、言語や文化背景の相違があり、日本人に向けて上映する際には、口頭で説明することが求められて登場したのが活動弁士です。
話術によって映像世界をナビゲートする役割を担っていたのだそうです。
当時、大変人気の職業で、全盛期の昭和初期には全国に8000人もの弁士がいたと言われています。
しかし、発声映画(トーキー)が出現すると、次第に弁士の数は減っていき、今では全国で10名ほどしかいないそうです。

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片岡さんは、そんな希少な活動弁士のお一人。
2002年にデビューされ、国内だけでなく、海外でも活躍されています!

声を当てるという点においては、声優とも似て取れる弁士ですが、片岡さん曰く、
“人物の声”を当てるのが声優。弁士は、”いかに話さないか”を大事にしており、会話の全てを表現する訳ではない。映像で伝わる部分には、あえて声は当てない」のだそうです。

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まず上映されたのは、片岡千恵蔵プロダクション製作「国土無双」(1932年)です。
サイレント映画期の日本における、喜劇映画の代表作だと言われています。
“本物と偽者の価値はどのように判別されるのか?”という、現代にも通じるテーマが軽快なテンポで描かれています。

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私、この作品で初めて片岡さんの語りを聞くこととなるのですが…
青年から中年男性、さらには若い娘まで次々にキャラクターを変えて表現され、どんどん私たちを映画の世界に引っ張っていってしまうのです!
きっと、同じ作品を上映したとしても、語られる弁士の方のセンスや表現力によって、全く違った表情になるのだと感じました。

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続いては、アメリカで製作され、世界で最もテレビ放映されるサイレント映画「ローレル&ハーディ 山羊の失恋」(1926年)。
山羊が人間に恋をして後をついて来るという、極めてシュールなシチュエーションコメディです。
ローレル&ハーディは、チビで弱気なスタン・ローレルと、デブで怒りんぼのイリヴァー・ハーディのお笑いコンビ。
片岡さんはこの対照的な2人も、見事に演じ分けられました。

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この他にも、コメディの基本がつまった「専売特許」(1923年)、日本アニメの原点とも言われている「太郎さんの汽車」(1929年)などが上映されました。

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今の私たちにとって、映像というコンテンツは毎日のように目にするもので、特に珍しいものではありません。
スマートフォンなどでも簡単に動画撮影ができ、誰でも気軽に映像を生み出すことができますよね。
でも、そんな現代だからこそ、弁士が語るサイレント映画の世界が魅力的に感じます!
そこには、昔の人々が娯楽として楽しんでいた時代背景を感じることができたり、当時の映画人たちがいかに限られた技術の中で作品を表現したのかという苦労が見えたり。
また、90年も前に生まれた映画が、現代の弁士によって何度でも新しい命を吹き込まれる、その”生”感にも感動しました。

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今回の講義は文芸学科主催で開かれましたが、映像学科や放送学科、キャラクター造形学科など、さまざまな学科の学びにも通じるものが、たくさん詰まっていました。
片岡さん、素敵な時間をありがとうございました!!

投稿:島田(企画広報部事務室)