綿キャンバスを二枚重ね丸いシミのような斑点が規則正しく表面に浮かび上がる。表面にある綿キャンバスは上部から裂かれ、内にあるもう一枚のキャンバスにはプルシャンブルーが触覚的な表情を見せている。
前田さんにお聞きしたのは、「絵画とは何か」、「支持体への問い」、「イメージへの考察」等絵画の問題に対し、学生時代どのような作家や作品、批評の影響があったのか、であった。
美術学科在籍当時、絵画コースでミシンを使い縫い合わせる作業が中心となる作品を制作していたとのこと。その手法が絵画への問いにどのような答えを出していくのか、当時を想像するだけで興味深い印象を受けた。
現在の作品は丸く滲んだドットの下に十文のラインが引かれ規則正しく配置されている。このドット模様は新印象主義絵画の点描画やそれ以降のポップアート、そして草間彌生など現代まで常に重要な表現手法として実践されている。今の若手美術家たちもこのドット表現に関心が深い。
初期の作品は、布を縫い合わせたレリーフ的作品から糸を解したら一枚の布に戻るという可変的平面性がテーマであったのだろう。しかしその後ドット表現が現れてくる。要因の一つに、前田さんは美術学科の授業にあったという。当時の松井正先生の課題「非現実的な世界を描く」こと、そして泉茂先生の「非現実的世界を描いた作品のイメージをドット化し再構成すること」という連携した課題がドット表現の一遍を培っていたとのこと。前田さんの当時の感想では、具象的イメージをドット構造に分解し構築する作業は大変苦しかったという。ドット記号をシステマティックに描くことは肉体的精神的に大変苦痛となって制作者にのしかかる。しかしその経験が「絵画とは何か」への解答にもなってきた。興味深い話であった。
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報告 教養課程講師 加藤隆明 協力 芸術計画学科研究室