2010年6月16日

布に懸ける 若きアート魂を見よ

   

 幸運や楽しい出来事、凡々とした毎日ですら、再び同じ時間が繰り返されることがないように、織りや染めも、同じ意図や素材を使って同様の制作工程で作ったとしても、色や風合い、手ざわり、微妙なニュアンスなど、完全に同じものを創り出すことはできません。
 これこそが手作りの醍醐味であって、テキスタイルや染織の世界に魅かれた人たち、布を愛する人たちが夢中になるわけがここにあります。
 今回ご紹介する作品展ちひさきものはみなうつくし Small Works 切・布・裂は、本学の工芸学科テキスタイル・染織コースの学生が制作研究してきた織りやろう染め、シルクスクリーン等で創り込まれた手作りの布です。
 矩形に切った小さな布には、伝統的な技法だけでなく、染織のミライを予感させるような斬新な工夫があり、どの作品も美しさを伝えるための緻密な計算が覗えます。
 制作した学生たちが、何にこだわり、何を心がけたのか。長い時間を費やし、丹念に仕上げた作品が展示ケースに一堂に並べられると、無心であることの強さやおおらかさを発し、観る人の目を惹き付けます。
 織り込み、染められた一枚の小さな布がこれほど品格を醸し出し、作者の美意識や心象世界を伝えるとは。驚きと共に染織芸術の深さに感動を覚えます。

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斬新で奥深い作品に惹き込まれてしまいます!工芸学科の学生たちの作品です!

    

     
 開催初日から、図書館を利用される方々の間で話題になり、多くの方に作品に触れて頂きました。先日も、本学で開催された教育懇談会に参加された保護者の方々からご好評を頂き、一般の方々の芸術への関心の高さを改めて実感しました。作品を堪能された後、一様に、本展覧会のコンセプト“ちひさきものはうつくし”の言葉にナットク!の表情をされていたのが印象的でした。

 皆さんは今年2月に、館内で展示した福本繁樹ブックアート和綴じ「さいはひぼん(福本)」鬼本・彦本・姫本豆本を覚えておられますか?

右:いとし 2009年度2回生小作品集 左:2004年度
 今回のSmall Works 切・布・裂を指導された福本教授の手仕事による、蝋染めや布象嵌をはめ込んだ和紙を和綴じ本にした、染織工芸の技が冴える作品展でしたが、このブックアートの世界に興味を持ったテキスタイル・染織コースの学生が、意欲的に取り組んだのが写真の和綴じ本です。

 多様な素材と手法による作品に一貫して言えるのは、学生たちの素材に対する徹底的な探求と幾何学的な形が誘発する端正な美です。この小さくも美しい布(きれ)だからこそ、平面に並べてみるもよし、和綴じにしても、額に入れてもよし。自由な発想や表現で、染織工芸はまた新たな芸術領域に昇華していくのだと思います。    
                                             右:いとし 2009年度2回生小作品集 左:2004年度

 新感覚ユニット!「小枝プロジェクト」
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新感覚ユニット!「小枝プロジェクト」

 現代工芸の制作として、学生たちは「100本の短い枝や棒のような材料を使ってかごを作る」という課題に取り組みました。枝や棒の感じを出すために学生たちがそれぞれに考え選んだ材料は、ストローやつまようじ、綿棒、マッチ棒、ペン、クリップなど。既成の枠にとらわれない、ユニークなかごが学生の手により編み出されました。

とても細かいですね!!

 見る人が楽しんでもらえるよう丸テーブルに置いて、いろんな角度から鑑賞して頂きました。ねらった通り、作品展を観に来られた方はもちろん、作品展を知らずに閲覧室に来られた方も全員と言っていい程、足を止めて見入っておられました。

 「ちひさきものはみなうつくし」作品すべてにあてはまる言葉です。
 作品の中からオーラのように発せられる“爽気”、凛とした清潔感は作品の向こうにいる学生たちの魂から湧き出してくるもの。ものづくりに対してまっすぐにこころを込めて取り組む、そんなひたむきさが端正な美を生むのだと実感しました。
 全作品を本ブログに載せたいところですが、学生たちの作品の中から1点、紹介します。作家のアート魂が伝わるメッセージを添えて。

「想像の創造」

       「想像の創造」
     タコ糸 毛糸 ガラス絵具/綴織り

          作品を作るときに、
  想像していたことが出来ない事があります。
そんな困難を埋められるような創造者になりたい。
               C08060 米田 尚美

 作品展は終了しましたが、図書館では今後も本学で学ぶ未来の芸術家たちが制作した作品を発表する場、“アートライブラリー”としての機能を発揮し、学生に様々な芸術作品に触れてもらい、新しい可能性や