幸運や楽しい出来事、凡々とした毎日ですら、再び同じ時間が繰り返されることがないように、織りや染めも、同じ意図や素材を使って同様の制作工程で作ったとしても、色や風合い、手ざわり、微妙なニュアンスなど、完全に同じものを創り出すことはできません。 これこそが手作りの醍醐味であって、テキスタイルや染織の世界に魅かれた人たち、布を愛する人たちが夢中になるわけがここにあります。 今回ご紹介する作品展ちひさきものはみなうつくし Small Works 切・布・裂は、本学の工芸学科テキスタイル・染織コースの学生が制作研究してきた織りやろう染め、シルクスクリーン等で創り込まれた手作りの布です。 矩形に切った小さな布には、伝統的な技法だけでなく、染織のミライを予感させるような斬新な工夫があり、どの作品も美しさを伝えるための緻密な計算が覗えます。 制作した学生たちが、何にこだわり、何を心がけたのか。長い時間を費やし、丹念に仕上げた作品が展示ケースに一堂に並べられると、無心であることの強さやおおらかさを発し、観る人の目を惹き付けます。 織り込み、染められた一枚の小さな布がこれほど品格を醸し出し、作者の美意識や心象世界を伝えるとは。驚きと共に染織芸術の深さに感動を覚えます。