2009年3月4日

Positive Taboo 「加賀城 健 展」

もうこのブログでもお馴染みとなったYOD Galleryでは「加賀城健 展 –Positive Taboo」がスタートしています。“前向きなタブー”って一体何なの?その謎を究明するために早速ギャラリーに伺ってきました。
加賀城健 Positive Taboo
ギャラリーの入り口横のタイトルスペースの壁面の華やかなディスプレイがお出迎えです。搬入には実に4日間もかかったんだそうです。内部のギャラリースペースも加賀城さんの制作姿勢を反映しこだわりぬいた展示に仕上がったそうです。

加賀城健 展 –Positive Taboo-
加賀城健さんは本学・工芸学科卒業後大学院に進学され、更に大学院修了後研究員としても1年在籍されていました。大学院を修了される年から京都、東京などで数多くの個展を発表されてきました。工芸の伝統技法を重んじる見方からすると「失敗」とされるプロセスから、新たなアートを展開する工芸作家です。その実験的な制作活動から生まれる造形に美術的な表現の面白さを見出し、そこに独自性を加えて完成された作品には伝統工芸と現代美術を行ったり来たりするような愉しみが感じられます。
加賀城健 Positive Taboo
ギャラリーに入ってまず目に飛び込んでくるのは、その動きのある展示方法です。YODの展示で初めてギャラリーの角を斜めに橋渡し、二つの壁面を繋いで使ってみたのだそうです。一般的には染織の作品は壁面の高い位置から垂らすように床まで拡げて展示することが多いそうですが、ここでも伝統に反抗するように「こだわりの横向き」。そんなこだわりからも加賀城さんの挑戦的な姿勢が窺えます。
加賀城健 Positive Taboo
グルリと見回してみると他の壁面も大小の作品の対比が際立つような大胆なレイアウトで雰囲気の違う作品がずらり。何から聞いていいのか、ちょっと取り乱されました。

染織の技法には例えば友禅染などで用いられている「糊防染法」というものがあります。餅粉と糠(ぬか)を混ぜ、蒸して作られる糊を使っていわゆる“マスキング”をする技法です。加賀城さんはこの糊によってできる斑(ムラ)や罅(ヒビ)の状態を積極的に取り入れる独特の制作方法でその独自性を築いてきました。このプロセスが伝統技法では“技術的に未熟”だったり、“良くないお手本”として見られるのだそうです。
加賀城健 Positive Taboo
正面に展示されている作品『Discharge –かみなりおこし“再生”』の縞模様は加賀城さんの運動の過程が刻まれたものなのだそうです。生地に糊を押し付けて延ばしながら移動するスピードによって糊の厚さに斑ができます。そしてその生地を染めるのではなく脱色するという方法。

加賀城健 展 –Positive Taboo- 
糊を施した後の生地を急激に乾燥させると罅割れてきます。『Crack –はじまればおわる、または“A』のシリーズは、その罅から染み込んだ染料が生地に残す形を使った作品なのだそうです。

また前々から構想はあったそうなのですが、今回のYODでの個展のためにカラフルな作品も挑戦したそうです。薄い布地に落とされる様々な色の染料が生地の上で“陣取り合戦”をしながら染み拡がっていくのを観察して楽しみながら出来上がった作品なんだそうです。薄い生地は2重に重ねて制作するので拡げるとシンメトリーになっています。DMなどメインビジュアルとして使われている作品は『Fold–戦士』。
 加賀城健 Positive Taboo
更に一部をトリミングして左右対称の対の作品として展示されているのが金運がアップしそうなタイトルです。
加賀城健 展 –Positive Taboo-
ギャラリーにいた加賀城健さんは「他力」という言葉を使って「“した”ではなく“なった”」というニュアンスの「偶然性」を大切にしておられることや、「素敵なものが自分の目の前にやってきた時に見過ごしてしまうのではなく、ちゃんとそれに気付ける“目利き”のような部分をこれからもっと鍛えていきたい」、そんなお話をしてくださいました。子供の頃、遊びの中で気付いた「発見」や「面白さ」を素直に受け止める感性がこれらの作品を生み出してきたんだなと思いました。

思いつくままに質問する私に困惑することなく、落ちついて一つ一つ丁寧に説明して下さるような誠実さと堅苦しくない雰囲気の持ち主です。その実験的な独自の制作方法から「正統から外れている」、「特異な存在」として見られてきた作家さんだそうですが、とても穏やかな話し方で攻撃性を感じるような部分は全くありませんでした。ただ良い意味での頑固さがあって「なぜそうじゃなきゃいけないのか」ということを伝統工芸の世界に問い続けてきたんだと思います。

「抑圧されたものが反発で何かを生み出した」とは穏やかではない。「温故知新」、そう考えましょうよ。日本には平和的な良い言葉があるものです。そして、新しい技術も時間が経てば伝統技術に変わるときが来るんだ、そう思います。伝統を蔑ろにするわけではありませんが、美術工芸の世界は何が革新で、何が伝統かを区別するようなフィールドではないなと、この個展を通じてそんなことを考えました。
『「【〔感想〕】」』→カッコつけ過ぎな感想、ですね。(求ム失笑)
加賀城健さん、YOD山中俊広さん、お話ありがとうございました。

●加賀城 健 展 – Positive Taboo –
 200933日(火)→21日(土) 11:0019:00
 閉廊日:毎週 日曜日、月曜日(320日〔金・祝〕は開廊)
 会 場:YOD Gallery (大阪市北区西天満4-9-15) TEL.06-6364-0775

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2009年3月3日

時空を超える想像力、創造力。御時幻影 舞台創作展

今日からほたるまちキャンパスで始まった『御時幻影 舞台創作展』にいってきました。この展覧会は20081113NHK大阪ホールで行われた大阪芸術大学ミュージカル「御時幻影 –そして物語は光になった」のために制作された衣裳の展示を中心にして、このミュージカルの企画や創作を紹介する展覧会です。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
もともと「広告の企画と表現」という授業のなかで提示された課題から生まれたこのミュージカル。「源氏物語千年紀を記念し、各学科の持ち味を生かしてどんなことができるか」そんな課題だったそうです。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
たくさん創作された脚本から3人のものを選びシナリオをまとめ、全く新しい源氏物語が誕生する経緯やミュージカル本番時の臨場感溢れる出演者たちの写真がパネルになって展示されています。その他に衣裳のデザイン原画、舞台装置の模型、台本など、舞台の裏側的なことも知ることができるようになっています。会場に流れる音楽もすべてこのミュージカルのために作られたもので、実はCDにもなっています。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
ミュージカルの中でシーンとして設定されている「源氏物語衣裳展」が劇中ではなくリアルに実現しています。ミュージカルの中では源氏が愛したたくさんの姫君が1000年の時越えて現代にやってきます。そして1000年後に語り継がれている自分達の姿を知るシーンがあります。会場にはその姫君たちが再び現代に遊びに来て4ヶ月前のミュージカルを思い出しながら会場を見て廻っているようなユニークな展示です。おもちゃのチャチャチャではありませんが、夜中にホントに動き出していたりして・・・。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
今回の展示も在校生が企画から制作、展示搬入をしてくれました。動きのあるマネキンのポーズやレイアウト、箱馬や脚立をそのまま使って舞台創作を演出していることや照明の色まで随所に工夫がうかがえる会場となっています。マネキンの足元などに示されたひらがなはパンフレットと連動しており、衣裳と登場人物を結びつけるキーになっています。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
この企画展のスタートは何と昨年1225日だったそうです。お正月や入試期間、卒業・修了制作展など行事が目白押しだったので実際に動けたのは1ヶ月程度だったんだと思います。この短い時間の中でよくぞここまでのクオリティに仕上げられたものです。プロに発注したものではないことを示すように、あえて手づくり感を見せる部分もありました。意図的に学生企画らしくするバランス感覚は絶妙です。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
スタッフの皆様はこの展示企画のためにあらためて源氏物語を研究したのだそうです。その仕事量や情熱はスゴイ。スタッフの皆様、ほんとにお疲れ様でした。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
会場の奥には、大阪芸術大学図書館の所蔵品より「国宝 源氏物語絵巻」(復刻版)の他、源氏物語関連の図書やマンガも展示されており、文化的でありユーモアもある創作展になっていました。
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部
↑姫君たちに囲まれて記念撮影ができるように準備された椅子も。

3月8日には『「御時幻影」制作エピソード』として、学生キャストと岩崎富士夫先生・浜畑賢吉先生の講演会と雅楽の演奏関連イベントも予定されています。今日は午前中から読売新聞社さんも取材にこられていたそうですので、新聞紙面でも詳しく紹介されると思います。

 

ミュージカルは東京で再演も計画されているようですが、ミュージカルを見ていなくても楽しめる、そして見たくなるような企画になっています。お時間のある方は、会場内の大型スクリーンで昨年11月の公演の様子をご覧いただくこともできます。本日、来場された方がアンケートの最後に「帰ったらホームページでミュージカルの様子をチェックしてみます。」と書いてくださっていた方もおられました。そう、OUA-TVでもご覧いただけますので是非チェックしてみてください。

ミュージカルは、ひとりの若者が京都駅で電車に乗るところからスタートします。ほたるまちキャンパスのあるエリアには京阪・中之島線が開通しています。“「中之島駅」からはじまる新たな源氏物語の世界を是非この機会にご覧ください”、ってなんかうまく言えたようなハピッピピな顔になってみたりして。実際は「JR福島駅」が利用しやすいですよ。

●御時幻影 舞台創作展 めぐり逢いと雲隠れ
 200933日(火)?315日(日)
 11:00?19:00 会期中無休
 会場:大阪芸術大学ほたるまちキャンパス
 ↓詳しくは・・・
御時幻影 舞台創作展 源氏物語 紫式部

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2009年3月2日

音楽の花束 vol.6

昨日(31日)に行われた大阪芸術大学大学院音・舞・創 総合芸術祭音楽の花束』に行ってきました。そう先日、練習風景を見せていただいた演奏会の本番です。この学外イベントは、もともと大学院・芸術制作専攻の研究領域が音楽系の1年生による音楽祭として行われていました。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
音楽の花束
6回となる今年は“総合芸術祭”として企画され、演奏会だけでなく舞踊や工芸作品の展示まで楽しむことができる催しとなっていました。

音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
1曲目は本学で講師をつとめている田中久美子先生に作曲していただいたこの芸術祭のための作品でした。「音楽の花束」という曲は今回のステージが初演。打楽器の音が加えられて演奏されました。ちょうどお天気も良い日だったのでそのせいもあってか、曲がより春らしく感じられました。オープニングにふさわしいさわやかなメロディーは心地良かったです。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
その後、2曲目、3曲目と室内楽が続きました。もともとヴィオラで演奏する部分をクラリネットに替えた編成で演奏される曲などもありました。

音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
4曲目には素敵な舞踊と音楽の作品でした。音楽の原作は「マキシムの帰還」(1973)のための映画音楽を舞台作品に基づいて編曲したものなのだそうです。舞台芸術専攻の大西千尋さんがこの音楽からイメージする世界を振付し自ら表現しています。「音を舞踊化する振付方法」という説明がありました。
楽しく軽やかに弾むワルツステップやターンがたくさん取り入れられた華やかな作品でした。まずは舞踊なしの演奏を聴いて、そのあと同じ曲を舞踊付きで鑑賞。楽曲の解釈は言語表現だけではなく、身体表現という方法もあるんだと素直に感心しました。

音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
第一部最後は打楽器の演奏で『-sai- 2台のマリンバと2人の打楽器奏者のための』という曲でした。この曲は「夜桜」「紫陽花」「」という3楽章からなっており、季節を象徴する自然の様子をマリンバはじめとする打楽器で表現した作品です。今回はその中から「夜桜」と「」の楽章の演奏でした。
様々な打楽器を駆使して表情の違う音を作り、二つの季節を表現していました。夜桜は散った花びらがヒラヒラと夜空に舞う切ないような繊細な曲をイメージしていましたが、意外とドラマチックな曲でした。激しい演奏から一気に静寂が訪れる演奏終了の瞬間はとても緊張感があってグッときました。

音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
20分の休憩時間、来場者の方々はロビーに展示された作品を鑑賞されるなど思い思いに過ごされていました。作品はロビーの雰囲気を大きく変えており、華やかです。サイズの大きな染織の作品や照明器具はとても効果的でした。(実はこの後の第二幕の間には作品は撤収されており、演奏会が終了後のロビーを通ったときにすっかり片付けられた空間は味目なさを感じるほどでした。)
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
ガラスの作品が窓側に展示されていて光を受けて透ける感じが一層作品を美しく見せていました。この芸術祭のパンフレットにも使われているような花をモチーフにしたグラフィック作品が展示されており、記念に持って帰れるポストカードも用意されていました。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの

2部はオペラでした。歌劇「フィガロの結婚」のハイライトヴァージョンです。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
4幕で構成されていて、それぞれの始めにスザンナ役やマルチエリーナ役の出演者が役としてシーンの説明を日本語でしてくれるので歌劇の内容が良くわかりました。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
言葉がわかればもっと楽しめるはずなんだろうと思います。歌の内容はほとんど理解できなくても出演者の表情や歌の調子で騒動の渦中の人間模様が面白く感じられました。
音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの

音楽の花束 音・舞・創 総合芸術祭 Licはびきの
最後は出演者全員がステージ登場し一礼した後、第二部の出演者が舞台の2階のパイプオルガンの前に整列し、「故郷(ふるさと)」を合唱しました。第一部の出演者はステージ上で演奏し、全員による心のこもった日本歌曲の演奏した。

このイベントには昨年も来させていただきました。前回とはまた違う「音楽の花束」でした。今年修了する大学院2年生たちの姿も会場で見かけましたが、どんな風に感じたでしょう?越えられた?越えられなかった?
出演者をはじめ大学院生が研究領域を越えて集まり、随分前から企画を練り、準備されたのだと思います。皆さんご苦労様でした。今年入学する大学院1年生達が、どんな企画でどんな春を演出してくれるのか。来年がまた楽しみです。

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